定年は60歳や65歳とされているが、この年齢を過ぎるとそれ以降はただの人になる。
会社でどんなポジションにいたとしてもだ。
この事実から、多くの会社員は定年が終着点と考えている。
ただ、定年をゴールと考えるのはあまりにも勿体無い。
せっかく自由な時間を手に入れたのだ、有効に過ごしたいものだ。
そして、その時間は決して短くはない。
自由な時間を過ごせる「黄金の15年」が待っている。
と、言われているが、本当だろうか?
この記事ではこの長い時間はなぜ生まれたのか、どう過ごせばいいのか、本当に黄金の時間なのかを検証してみた。
これが特に今「定年なんてまだまだ先のことさ」と思っている若い世代にも定年を考える機会になれば幸いである。
日本の労働人口の90%は雇用で生計を立てている
昭和30年代は日本の労働人口の約50%が会社員や公務員として給与で生活する雇用者であった。
昭和62年には約75%、平成28年にはその構成比が約90%にまで拡大した。
ほとんどの働く人が組織が決めた定年に左右されると言うことだ。
また余談だが、労働人口は今の日本全体の中でどのくらいの構成になっているのか気になる。
そう思うのは、リタイアして食料品の買い物に出た時に、平日、これほどの人がいるのかと驚くことがある。
調べてみると、日本の総人口のうち労働力人口比率は2021年現在 62.1%だそうだ。
確かに休日に比べれば人出は少ないが、平日でも相当数の人が街にいるはずである。
黄金の15年はどれほど長いか
「黄金の15年」を唱えたのは 新書「定年後」の著者、楠木 新氏。
氏によると定年を仮に60歳とすると健康寿命とされている75歳までの時間は8万時間。
現役で40年間務めていた総時間は8万時間に満たないそうだから働いていた時の時間よりも定年後の時間が長いことになる。
定年を最終ゴールだとしたら残りのこの時間はどうなるのか。
何も予定がないとしたらそれは苦痛以外の何物でもないだろう。
定年はゴールではなくその後の通過点であり、定年後のその時間が人生で一番自由で、有意義だと思う必要があるのではないだろうか。
定年後の15年は本当に黄金なのか
会社を定年退職(早期退職を選ぶ人もいる)した後、人はどうするか。
ある人は給料は驚くほど減ってしまうが同じ仕事を継続。
ある人は、失業保険が続く限り、悠々自適に過ごした後、新しい職場に再就職をする。
そして、定年を契機に事業を立ち上げたり、全く異なることを始める人もいる。
例えば、楠木新氏の著書で紹介されているのは、理容師になり理容の事業を興した人。
学生時代の特技を生かして落語家になった人。
はたまた、昔から憧れていた役者になった人など様々だ。
ここで、疑問なのは、なぜ知力も体力もまだまだ十分にあるその年齢が定年に決められているのかということ?
最近では65歳定年制が推奨され実際に65歳まで働く人も多いように思うが、給与は定年前の4割程度に減り、さらに役職もなくなり、ずっと年下の元部下であった上司のご機嫌をうかがわなければならなくなる。
実際にその給与では生活が保てないと、退職後に他の会社へ再就職した社員もいた。
そもそも定年は60歳や65歳が妥当なのだろうか。
本人がすでに業務を遂行できなくなっているのならともかく、知力、体力ともにまだまだ充分な余力があるのなら完全定年は70歳くらいが適当、もしくは定年制廃止で良いのではないかと思うのだがどうだろう。
70歳が良いかどうかは、まだ僕がその年齢を経験していないのでなんとも言えないが、周りを見てみるとそう言える気がする。
定年を70歳とし、本人の力量に応じて従前の役職も維持したまま継続雇用する。
財務的な問題や後進の育成などいろいろな課題があるかとは思うが労働人口が減ったこ
とを考えると正しい答えのような気もする。
仮に、70歳定年が長すぎるという人がいるのなら、途中でリタイアすればいい。
とにかく現実と制度が不一致になっているので仕方なく会社を去った後の時間が長く、何もしないでいるには勿体無いので「生きがいのある第二の人生を探そう」だの「黄金の15年」と言わざるを得なくなったのではないか、というのが僕の考えだ。
60歳定年制が義務化されたのは僅か24年前
今では当たり前になった60歳定年制は今から24年ほど前の1998年に義務化された。
僕が入社した1980年当時の定年は55歳だったのだ。
驚きである。
そして、65歳までの雇用確保措置が義務化されたのが2006年。
その間、日本人に平均寿命や健康寿命は著しく伸びてきた。
2010年における65歳時点での平均余命は男が18.86年、女が23.89年。
元気に自立して過ごせる期間である平均健康寿命も2016年には男72.14歳、女74.79歳まで伸びている。
黄金の期間が15年なのは制度の改定が間に合っていないから
定年の歳から健康寿命までの年月が黄金の期間とすると
定年を60歳とすると2001年は黄金の9.14年、2007年の黄金の期間は10.33年。
これは平均健康年齢が伸びたためであり、2006年の65歳までの雇用確保措置を考える
と黄金の期間は5.33年になる。
注)上記で記述の年代がバラバラなのはデータ不足によるもの。ご容赦願いたい。
この約5年くらいの期間であれば、仕事から解放された後の時間を好きなことをして過ごせばいいように思うのだが、実際は平均健康寿命も伸び、定年の引き上げはなかなか進まないために、気力、体力が残っている時間が有り余るほどになる。
健康寿命 マイナス 定年年齢 プラス 余命換算を計算すると8万時間になる。
それが「黄金の15年」の正体だ。
結局はいまの仕事に全力で取り組むのが一番
何が言いたいかというと、今世間で「人生100年時代到来」だとか「老後2000万円問題」「資産活用」だと言っているのは、定年後のシニア層をビジネスのターゲットとして各企業が狙っているからにすぎないと思う。
確かに新聞のお悔やみ欄に載る人の年齢は高齢化しているし、100歳を超える人もちらほらいる(最近知ったのだが、「お悔やみ欄」なるものが新聞にあるのは、僕が住んでいる地域だけらしい。全国的なものだと思いこんでいた。反省)。
だが果たしてこの高齢の方々の健康年齢は何歳だったのだろうかと紙面を見ながらいつも考えてしまう。
ここからは僕の完全な個人の意見。
『定年後の時間は、第二の人生、長い長い期間だ、だから次の生きがいを見つける必要がある。』と言っているのは余計なお世話ではないだろうか。
仕事をやりきったのだから、毎朝2度寝をするのもいいし、一日中テレビを観て過ごすのもいいし、夕方の時代劇を楽しみにするのも有りだと思う。
そもそも、定年になった会社は何か自分がやりたいことがあって選んだ会社のはず。
そこで仕事中心に働いてある年齢が来たら引退というのは極めて自然なことだと思う。
僕も他の記事では、若いうちからリタイア後のことを考えて趣味なり資格なりを準備すべきだと言って来たが、そんなことはいまの自分の仕事をきっちりやってからでいいのではないかと考え直した。
前にも書いた、入社時の上司のアドバイス「趣味を持ったほうがいいよ、定年してからが大変だよ」という言葉は今でもネガティブな印象しか持っていない。
若い人に改めて言わせてほしい。
今の仕事を全力でやり遂げなさい、趣味はあくまでも趣味、仕事や定年後を考えながらやることではない。
もしも、今の仕事が性に合わないのであれば、それはあなたの選択が間違えていただけ。
今の仕事をないがしろにしてリタイア後の準備にだけ注力するのはやめたほうがいい。
そもそも会社を選ぶのってやりたいことがあったからじゃないのかな。
定年後にやりたいことって言われてもね。
もっともだ。でも最初からやりたいことができなかったから定年後に挑戦するっていうのもアリなんじゃない。定年後はリスクも低くなるのは確かだよ。
まあ、いろいろな考えがあるからね。
仕事のスキルは定年後には役にたつ
とは言っても、制度が変わらない限り、現実として定年後の時間が長いことに変わりはない。
この期間に何をするのがいいのかは重大な問題だ。
楠木氏がいうように黄金の15年を輝かせるために今までの人生を振り返り、せっかく手に入れた自由な時間を有効に使わなければならないのだろう。
ヒントは今までやって来た仕事や、出張、顧客、業者とのやりとりで培った知識や経験にあるように思う。
極端な例で申し訳ないが、海外出張。
仕事で海外に行くためにエアーチケットの手配やホテルの手配、交通機関の調査、全て自分でやったことがノウハウとして残っている。
おかげで個人で海外旅行をする時もスムーズに準備できる。
自分は偉いのだからそんな雑用は部下に任せていた、と言うような人は残念ながらこの恩恵にはあづかれない。
以前テレビで新幹線のチケットは全て秘書が手配してるので自分では買えないと言う社長さんへのインタビューを観たが、死ぬまで社長でいたら問題ないだろうが、いずれはただの人になるのだろう。
仕事の段取りや営業や顧客との折衝の経験もスキルとして残ったように思う。
仕事は大変だったが、ノウハウやスキルは後で必ず役に立つということだ。
少し前に、アメリカの現地法人に70歳まで務めていた日本人の知人からリタイアした旨のメールをもらった。
これからは毎日ゴルフ三昧だと言っていた。
あれからどうしているだろ。
今度メールしてみようと思う。