新しい製品や商品を企画する時によく言われるのが、「プロダクトアウトはよくない」という台詞。
メーカーや工場の都合でつられたものは役に立たないという考えだ。
確かにメーカーの人間がどんなに最先端の技術を使って製品や商品を作ったとしてもマーケットの実情に合わないものは全くの意味がない。
意味がないどころか迷惑だ。
製品と商品は厳密には違うということをご存知でしょうか。
詳細については結構煩雑なのでここでは紹介しませんが、製品と商品は区別されて使われていることだけ覚えてください。気になる方はネット検索でいろいろな解説が出てきますので調べてみると良いでしょう。ただ、この記事の中では製品と商品は特に区別なく表現していますのでご容赦ください。
市場理解が最優先
以前、僕が所属していた会社で画期的な商品を開発したとして全社を挙げてプロモーションを行ったが全く売れなかったものがあった(幾つもあった)。
売れないのは仕方がないのだが、迷惑を被ったのは関連の出入業者だ。
半ば強制的にその商品を買わされていた。
業者の事務所に置かれたその商品を前に責任者の嘆きを何度聞いたことか。
僕がリタイアする少し前に、他の事業から異動してきた新任の幹部が顧客を訪問した際にもとんでもない提案をして赤っ恥をかいたらしい。
同行の営業担当者の話である。
その担当者は別途、客先へ謝罪に行ったらしい。
これらはプロダクトアウトのまずい例(具体的な内容はあえて伏せておきますが・・)だ。
プロダクトアウトがダメなわけではない
ただ僕はプロダクトアウトが全くいけないとは思わない。
ダメなのは市場を理解していない状態でのプロダクトアウトである。
市場を理解していないか、市場を作り出していない状態で製品や商品を作っても誰も認めてなんかくれないし、むしろ無知をさらけ出すことになる。
僕の現役時代も事業担当の責任者が変わるたびに全く同じ提案を出してくるのには驚きというか、呆れてしまった。
「〇〇君、その製品にはこんな機能つけたらうけるんじゃないかな・・・」
「そんなことは市場を一巡して見てから言ってくれ!」僕はいつも心の中でこう叫んでいた。
だって幹部には直接声に出して言えないですよね(注:時々は声に出して言っていましたけど・・、不良社員だったので)。
iPodはジョブズのイライラから生まれた
プロダクトアウトで思い出すのが、アメリカのアップル社から発売されたiPod。
今はスマートフォンに同じ機能が付属しているのでユーザーは少なくなっていると思うが、この製品が世の中に出た時は衝撃的だった。
「1000曲をポケットに」はまさに驚愕のコマーシャルトーク。
この製品はスティーブ・ジョブズ本人が音楽を聞くのに不便を感じて何とかしたいと思って開発した製品。
彼はそれまでソニーのウオークマン(CD版)を使って音楽を聞いていたが、楽曲を替える手間と大きさ、重さに苛立っていた。
その結果できたのがiPod。
彼の伝記にはそう記されている。
ジョブズのイライラはそのまま市場の問題点でもあったのだ。
電子機器に無縁の人もウオークマンの使い勝手の悪さには辟易していたと思うが、集積回路だけで音楽を記録できる方法はメーカーやエレクトロニクスに精通した人間でなければ思いつかないだろう。
市場は何を求めているのか、ユーザーは何を不満に思っているのか、それらを理解した上で自分が持つ知識とメーカーの開発リソースで製品化(具体化)する。
これが市場を理解したプロダクトアウトだと思う。
市場理解は自分が主役
メーカには大概、商品企画なる部門がある。
ではそこに企画を全て任せれば良いのか?
答えは、NOだと思う。
商品企画部門を否定する気はさらさらないが、実際に製品を開発、設計するエンジニアには市場を見て理解して欲しいのだ。
今も会社で技術に触れることができる若い(そうでない人も)エンジニアの皆さんには市場に出て欲しい。
机の上だけでは新しいものは生まれない。
自分で考えたら、本当にそれが世の中が求めているものか確認してみて欲しい。
いいものなのに市場がなかったら市場を作ればいい。
スマートフォンの市場なんて昔はなかった。
なければ作ればいい。
そして技術と工場のリソースを最大限に使ってプロダクトアウトしてはどうだろうか。
市場を理解したプロダクトアウトは悪くはないのだから。